
ある夏の暑い日、近隣にできたばかりだった特別養護老人ホームの施設長さんが訪ねてくださいました。
それから5年間くらいでしょうか。
リハビリの一環で入居者さまが参加する、絵画教室の講師を担当させていただきました。
今はもう終了していますが、その時のことを振り返ってみたいと思います(^^
リハビリとしての絵画教室
特別養護老人ホームでの絵画教室はリハビリの一環で、リハビリ科のスタッフの方々の運営で開催していました。
特別養護老人ホームは「介護老人福祉施設」とも呼ばれ、社会福祉法人や地方自治体が運営する公的な施設のことです。
略して「特養」って呼ばれることが多いですね。
特養にご入居になさる方は65才以上で要介護3〜5の認定を受けている方が対象です。
常に介護が必要な状態で、自宅での介護が困難な方がご入居されています。
絵画教室ってことは入居者さまの中で「入居する前は絵を描いていた人」とか「絵を描くのが好きな人」が参加するものだとばかり思っていました。
が!
絵画教室はリハビリの一環ということで、基本的に時間が空いている人はみんな参加、って感じでした。
なので、最初の頃は特に、すんなり描く方よりも
「絵なんか描きたくない」
「絵なんか描けない」
「もう帰る!」
みたいな…(^^;
もうね〜、自分の意思とは関係なく参加している皆さんの不満タラタラ〜…だったように思います(笑

最初のころの試行錯誤
最初「入居する前は絵を描いていた人」とか「絵を描くのが好きな人」が参加するものだとばかり思っていた私の計画は…
モチーフを見て鉛筆で簡単な下絵を描く
↓
透明水彩絵の具を使って、ささっと着色
↓
下描きからはみ出してもなんでもOK。
透明水彩絵の具のにじみのきれいさで誰でも素敵な作品ができる♪
って予定でした。
でもね、
実際には絵を描くことに興味がない人が大半で…
小学校以来絵を描いたことなんてない!
絵を描くなんて70年振りよ!
って皆さんにとっては、
下描きの線から絵の具がはみ出ること
絵の具がにじんで色が混ざり合ってしまうこと
これって「失敗した!」って思っちゃうことだったようです(^^;
たしかに、小学校の図工で着色するときは
下描きの線からはみ出さないように塗りましょう!
って言われますよね、たぶん。
子どもの頃の図工で絵を描いた記憶をもとにすると、下描きの線から絵の具がはみでることや、絵の具がにじんで混ざり合うことは「失敗した〜」って思ってしまうのも無理はないのかもしれません。
私としては、にじんでもはみ出しても気にしないで、にじみやぼかしの色のきれいさを楽しんでもらいたい、って思って透明水彩絵の具を持っていったのですけど…。
あとね、私は果物のモデルなどのモチーフをお持ちしたのですけど、そもそも絵を描いたことがないご参加者の皆さまには、いきなり立体物を見て絵に描くのはハードルが高すぎました。
「できない!」
「失敗したわ!」
「無理!」
って、なんかワーワーなってしまったのを覚えています。
というわけで、特別養護老人ホームでの絵画教室初日は惨敗に終わり、私は自分の力のなさにめっちゃ凹みました(^^;

自分で描く良さ
初回での失敗をもとに内容を考え直しまして、毎回テーマを決めて私が簡単な参考作品を描いて持参し、その参考の絵を見て描いていただくスタイルに変えました。
立体物を見て自分で平面に落とし込んで描くよりも、もともと平面である絵を見て描く方が断然入りやすいです。
それに、参考作品は誰でも描けるように、特に最初の頃はかなり簡略化した絵にしていました。
で、モチーフもお持ちして、絵心がある方、ご希望がある方はモチーフを見て描いていただくようにしました。
着色は、クレヨンで輪郭を描いてから絵の具で塗ることにしたので、「はみ出しちゃった、どうしよう!」「絵の具がにじんで失敗した!」ってこともなくなりました。
それでもなかなか描けない方は私がその場でクレヨンで線画を描き、色塗りだけやっていただきました。
「塗り絵」はご入居者さまたちが好きなことのひとつなのだそうです。
高齢者だけではなくて、塗り絵は大流行ですよね(^^
色を塗ることの楽しさもあるとは思うのですけど、絵画教室としては「形を描くところから、それぞれの方の個性がある作品を作る」ということをしていただきたいなって思っていました。
…っていっても見本を見て描くんでしょ?
そう思われたかもしれないですが、見本そっくりに描くことを目的にしてはいなかったし、これが不思議なもので見本を見て描いたからと言ってみんな同じ作品にはなりません(^^
最初の頃は絵画教室って言えるレベルではなかったと思いますが、それでも継続は力なり。
回を重ねるにつれて、ご参加する入居者さまたちの最初の頃の絵を描くことに対する抵抗はなくなっていきました。
創作への発展
絵画教室に参加することが当たり前になってくると、だんだんと見本を見て描くことから離れて
- 見本の先品に自分のアイデアをプラスして描いたり
- 見本を見ないでモチーフを見て描きたい、とご希望があったり
- その時の見本とはまったく関係ないアイデアをご自分で考えて描いたり
といった方が増えてきました。
自分のアイデア、オリジナリティ、自分なりの作品ができあがる歓び。
段階を追ってそういう風に発展していったのは、本当に素晴らしいことだと思います。
絵の技術、うまいヘタ関係ない魅力ってあるんですね(^^
ひとえに、懲りずにご参加くださった入居者の皆さん、献身的なリハビリ科のスタッフの皆さんの努力の賜物だなぁ、って頭が下がります。

いくつになっても描く楽しさ
特養にご入居になさる方は常に介護が必要な状態で、自宅での介護が困難な方…ということですから、体が不自由でそもそも鉛筆や筆を持つのが困難って方もいらっしゃいました。
それでも、前向きに楽しむ心を忘れていない入居者の皆さま。
特別養護老人ホームでの絵画教室で、最高齢は104才の方でしたが、「目が悪いからよく見えないのよ〜」とぼやきながらも熱心に描かれて、素敵なオリジナリティのある絵をたくさん描かれていました。
絵画教室に顔を出しても、いつも断固として描かない!って方がある時ふと描き始めてビックリしたり…なんてこともありました(^^
とはいえ、やっぱりかなり高齢の皆さまですから
先月まで毎回参加していた人が今月はいない…
先月までできていたことが今はできなくなってしまった…
そんな、年齢を重ねて行くことへの現実に凹むこともありました。
年齢を重ねてから絵を描くことにチャレンジし、描くことを楽しんで、自分の作品ができたときの歓びを素直に表してくださる参加者の皆さんに、毎回励まされていたように思います。
絵を描くこと、創造することってやっぱり素晴らしい。
私たちも楽しんで描きましょう。
お読みいただき、ありがとうございました(^^